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年金の本当のおはなし
GPIFが年金積立金を株式に投資して5兆円の損失を出したという問題について
GPIFが年金積立金を株式に投資して5兆円の損失を出した…というニュースが出ていました。
「GPIF 株式割合拡大が影響 年金運用損5兆円」

 この件について、皆様が大きな誤解をしていらっしゃるように思いますので、本当のことを書いておきます。尚、この内容は過日Facebook及びtwitterで書きましたもののリライトとなります。不足部分などを補っておりますので、ここに書きます内容が一番詳しく正確であるということになりますので、御了解下さい。

 まず、「年金」と「年金積立金」は全く別のものであることを御理解下さい。政府(年金官僚)が意図的?にこれを混同して発表しているようですので、皆さんが間違えられるのはやむを得ない話ですが、年金積立金で損失が出たからといって年金額には影響しませんので、まずはそこを間違えないでいただきたいです。これについては、多くのマスコミも間違えて報道していますし、政治家の方ですら間違えて認識されていらっしゃるようですが、誤りは誤りですので御注意下さい。
 日本の年金制度は賦課方式であって積立金方式ではありません。日本の年金は積立金から支払われているわけではありません。また、年金積立金の運用益から支払われているのでもありません。年金の総額は、運用益で賄えるほど少なくはありません。多くの方が間違えていらっしゃいますが、年金積立金は年金を補完するものではないのです。
 日本の年金制度が賦課方式である以上は、極端にいえば今必要な金額を今集めれば良いわけですから、基本的には積立金がなくても年金制度は破綻しません。年金制度が破綻するかどうかはよく言われている少子化が問題なのではなく、年金受給者と保険料支払者のバランスの問題です。バランスが一番悪いのは団塊世代が受給者である「今」です。将来は現役世代も減りますが年金受給者も当然に減りますので、今よりバランスが良くなる可能性は少なくないと思います。厚労省(年金官僚)は、ここを殊更に差が生じると喧伝していますが、そもそも「年金破綻」と言われだした根本は団塊世代をどう支えるか?であったことを考えれば、厚労省の話はおかしな話であると思います。

 さて、年金積立金というのはどういうものか?というと、集めた保険料から必要な年金額を支払った余り、つまり「余剰金」です。これについては、法律に明確に規定されています。日本の年金制度は賦課方式ですから、最初から制度として保険料から積立金に該当する金額を差し引くことはできません。年金積立金は、あくまでも支払った年金額の余りなのです。
 つまり、年金積立金の範囲で損失が出たところで、年金額そのものが減額されることはありえません。ここをしっかり押さえていただきたいです。
 そのうえで、年金積立金は国民が拠出した保険料の一部であり、どういう理由かは存じませんが国(というか厚労省?年金部局?)が勝手にプールしているお金(余剰金)ですので、誰の手元にあるかに関わりなく国民の財産であることには違いありません。年金積立金で損失を出すことは、年金額に関わりなく国民の財産を棄損していることとなりますので大問題です。年金額が減るから問題なのではなく、国民の財産を棄損したから問題であることを、キッチリ認識していただきたいです。
 年金額に影響するから問題であるとした場合は、年金額に影響しない限りは無問題とされてしまいかねません。年金積立金は年金を支払った後の余剰金ですから、当然に年金額には影響しません。となれば、年金積立金の全額が消えたとしても無問題ということになります。GPIFが年金積立金を株式に投資して5兆円の損失を出したという問題は、年金額に影響するかどうかが問題なのではなく、国民の財産を無くしたことが問題なのです。

 年金積立金が株式投入によって減額し、そのために年金額が減額されるというデマの問題点ですが、そのような認識が国民全体に行き渡ることによって、現在でもすでに余剰金が発生するほど余分に徴収している保険料を、より引き上げる事を容認させ、あまつさえ年金支給開始年齢の引き上げをも容認させることとなります。残念なことに、これに気付かないままデマを拡散している政治家の方もいらっしゃるようです。
 現在の年金保険料は来年まで自動的に引き上げされることが平成16年に決まっていますが、それ以降は物価変動以外の引き上げはできないという法律になっています。となれば、物価が下がっている以上は、保険料も下げることとなるのが本来の姿です。しかし、来年以降も保険料を引き上げたいがために、保険料増額の道筋を作るためのデマと言うことができます。
 一方、年金支給開始年齢については、現在、老齢年金は65歳からの支給開始となっていますが、これは国民年金については元々65歳支給開始で、60歳から65歳に変わったのは厚生年金、共済年金という、今でいう「二階建て部分」がある年金です。この引き上げは、年金制度の一元化によって国民年金を厚生年金の一部としたために、国民年金の65歳からの支給開始に合わせる必要があって生じた事態です。今言われているような年金資金が不足するかどうかによって65歳以上への引き上げを行うという話とは根本的に意味合いが違います。
現在の年金制度は、40年間保険料を掛けて20年間年金を受け取る…というのがざっくりとした形です。もちろん、その方その方の生死によって受け取る期間は変わりますが、平均寿命で考えれば大体そのような形になります。しかし、これを70歳に引き上げれば、本来20年間受け取れていた年金が15年しか受け取れないこととなります。当然に受給する年金額の総額は減額します。大変残念な事に、平均寿命は今後5年以上引き延ばされる可能性は非常に低いです。むしろ、下がってくる可能性もあるでしょう。そうなれば、年金を受給できる期間は15年ではなく、もっと短い期間となるかもしれません。しかも、年金積立金が損失しているという話を基に年金額が減額されることが正当化されれば、より受給する年金額は減額することとなります。そうなれば、国民にとってはより大きな損失となります。
 「年金積立金を株式に投入したことによって年金に損失が発生した」という話は、株式投資によるお金(というか数字)の損失だけではなく、現実的な国民の実損害となるのです。このような国民にとって重大な損害となりかねないデマに踊らされることがあっては、絶対にならないと思います。

 野党議員は、年金積立金の運用損によって年金額が減るなどという話ではなく、なぜこんな巨額の必要もない積立金が存在するのか?をこそ追求すべきです。そして、年金積立金は保険料を支払った国民に還元するか、国民に資するなんらかの使用を求めるべきです。もちろん、そのときに無駄な箱ものを作るなどという選択があってはなりません。例えば、新しい年金制度への移行で生じる差額への埋め合わせなども考えられるでしょう。
 株式に年金積立金を突っ込んでいる連中は、年金積立金が余剰金であることは百も承知です。そんな相手に「株式の損で年金が減る!」なんて言ったって通用するワケがないじゃないですか。そんな見当はずれな事を言ったところで、何の意味もありません。
 「年金額が減るから問題」なのではなく、「国民の財産を棄損したから問題だ」と、ハッキリ言うべきです。でなければ、年金額は減らないのだからいくら年金積立金を減らそうと問題はない、と考えられてしまいます。年金積立金は国民の大切な財産であって、政府や官僚が勝手に使って良いお金ではないとハッキリさせるべきです。
(2016.7.4)







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