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年金の本当のおはなし
<「年金の常識」の間違い>世代間格差は本当か?
<「年金の常識」の間違い>シリーズは、思いついたものから書いておりますので、順番が前後したり話が重複したりすることがあります。申し訳ありませんが、御了承下さい。

現役世代、特に30歳代より若い方々に、年金については「自分達は損をする一方だ」というお考えをされる方が少なからずいらっしゃいます。これには政府と報道の誤導による部分も少なくないのですが、先般の内閣府の発表によって、絶対的な事のように認識されるに至ってしまいました。
でも、これは本当に本当なのでしょうか?
もうすでに絶対的事実のように信じ込んでいる方を説得することは難しいと思っていますが、でも、真実は正しくはないのです。

年金制度において受給する年金額については大きく2回の切り分けができます。
一番古いものは大正15年4月1日以前生まれの方々。この方々は、本当に多い額の年金を受け取っていらっしゃいます。所謂、「年金で悠々自適な老後」が実現できた方々です。ただし、該当年代の全員が年金を受け取っているわけではありません。この世代の方々で年金が受け取れたのは、公務員か厚生年金に加入していた会社に勤務されていた方です。自営業の方など年金の無い方も少なからずいらっしゃいます。特に女性で御自身の年金を受け取っている方はかなり少ない人数となります。
その次が大正15年4月2日〜昭和16年4月1日生まれの方々。この方々は上記の方ほど多くはないですが、比較的年金額が多い世代です。しかし、20歳時点ではまだ国民年金制度のない世代ですので、上記ほどではありませんが年金のない方がいらっしゃいます。御自身の年金のない女性が多いのも上記と同様です。この方々は、戦後の混乱期から高度成長時代が現役世代だったこともあり、数字上の金額としては保険料が少ない時代も長かった方々です。ただし、物価や一般的なお給料額と比較すれば保険料額が低いとは言えないのも事実です。
そして、昭和16年4月2日以降生まれの方々です。昭和16年4月2日以降生まれの方々は、年金を算出する計算式は全て同じですので、年単位の年金額については基本的に変わりがありません。ただ、大正15年4月2日以降生まれの方も含めて生まれの早い人ほど乗率が高く設定されていますので、単純に計算すれば高い目の年金を受け取っていることとなりますが、これは当時の物価・賃金との関係で差を付けざるを得ないためです。

例えば、今年60歳になられる方(昭和27年4月2日〜昭和28年4月1日生まれ)と、今年20歳になられる方(平成4年4月2日〜平成5年4月1日生まれ)では、計算式も乗率も同じです。もし、平均標準報酬月額…つまりお給料の額が同じであれば、どちらも年単位の年金の額は同じです。実は、年金制度が現状のままである限りは、団塊世代も今の20歳代も年金額には差はないのです。
年金額で差が生じるのは、60歳から65歳の間の特別支給の老齢厚生年金の部分です。しかし、これが決まったのは、すでに書いていますように、昭和61年改正の時です。もう25年以上前の話です。そして、今年60歳になられる方の場合、老齢基礎年金に該当する定額部分はありません。また、60歳以上であっても厚生年金を掛けて勤務されている場合は、在職老齢年金の制度によって一部から全部がカットされることとなっています。現実問題として、この対象となっていて、しかも全額カットとなっている方は多く、これはこれで問題となっています。
つまり、多くの場合、今60歳の方も今20歳の方も、受け取る年金額に大きな差はありません。

一方で支払う保険料の方の差ですが、確かに平成16(2004)年改正時に保険料の値上げを決め、現在も年々保険料は上がり続けています。
この値上げは、国民年金が平成16(2004)年は13,300円だったものを平成29(2017年)に16,900円へ、厚生年金が平成16(2004)年は13.58%だったものを平成29(2017年)に18.3%へ上げるというものです(物価等により変動します)。厚生年金は保険料率なのでわかりにくいかと思いますが、仮にお給料額が30万円だとすると保険料は40,740円が54,900円となります。尚、このうち半額は会社負担となりますので、本人負担分の差額は7,080円です。
ところで、保険料額は最初に年金制度ができてから、ずっと上がり続けています。国民年金は昭和36年に制度ができましたが、この時の保険料は35歳未満で100円、35歳以上で150円でした。厚生年金は昭和17年に制度ができましたが、この時の保険料率は6.4%でした。良し悪しはともかく、今の人たちだけが前の世代より多くの保険料を支払っているわけではありません。

ところで、厚生年金制度においては、給与額と年金額の関係が単純には比例しません。年金制度は国が運営する事業である関係上、所得の再分配の法則が加味されています。
例えば、現行の厚生年金では、保険料が一番低いお給料額は約10万円で一番高いのは約60万円です(標準報酬月額表で一番高いのは62万円の枠で、これ以上お給料額が高い場合は全て62万円として計算されます)。お給料額の差は月約50万円ですが、年金額では月10万円程度の差となります。つまり、損得で言えば給与額の高い方ほど損となり、給与額が低いとされている現在20歳代、30歳代の方々の方がお得となります。

このように、年金制度として冷静に考えれば、決して世代間格差と言えるような状況ではないのです。確かに、60歳から65歳の老齢厚生年金については廃止されますが、それも在職老齢年金によって現在でも減額されています。世代間で特に差と言えるほどのものはありません。

ところで、基礎年金番号があり日本年金機構に国内の御住所が正しく登録されている方は、毎年「ねんきん定期便」が届きますが、ここには過去に掛けた保険料額の総額とそれを基にした予想年金額が書かれています。御丁寧に20年間年金を受け取った場合の総年金額も書かれています。
この額は正しく算出された額であり、物価に変動がない限り、まさにこの額が支給されます。掛けた保険料の総額と20年間で受け取れる年金の総額と、どちらが多いでしょうか?(加入期間の少ない若い方は当然に年金額が少なく算出されていますが、今後も加入を続けられる事によって年金額が増えます。去年のねんきん定期便に書かれた額と今年のねんきん定期便に書かれた額を比較してみて下さい。制度に加入し保険料を納めている限りは増額しているはずです)

先般の内閣府が発表した「社会保障を通じた世代別の受益と負担」については、少なくとも年金に関しては、実際の年金制度とは話が合いません。何を根拠に、また何を目的として、このような発表をされたのか、全く理解に苦しみます。
そもそも、なぜ制度を管轄している厚労省ではなく、また総務省でもなく、「内閣府が」このような発表をされたのでしょうか?その「意図」を冷静に判断する必要があるように思います。


(2012.3.4)




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