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年金の本当のおはなし
年金積立金の株式投資による多額の損失が発生した件について
年金積立金を株式投資したために多額の損失が生じているというニュースが駆け巡っておりますが、この話に関連して、根本的に間違えていらっしゃるお話が散見されますので、正しい事を知っていただきたいと思います。
今までにも何度も繰り返しているのですが、日本の年金制度は賦課方式であって積立方式ではありません。賦課方式というのは、今集めた保険料を今の年金額に充当するというものです(厳密には集めてから1,2年後の年金に充当することになるでしょうけれど)。保険料を積み立てておいて、将来的にそこから年金を支払うというものではありません(もう一つ念のために書いておきますと、「年金」というのは国が国民に支払うものです。国民が国に支払うのは「保険料」です)。
一般家庭では働いている年齢の時に資産を増やし、将来の老後のための資金を蓄えるという考え方が一般的だと思いますが、年金制度はそのような考えではありません。将来のために積み立てるという考え方ではないのです。ここを勘違いしない事が重要です。

年金積立金は、集めた保険料から支払った年金額の余り、つまり余剰金です。厳密な事を言えば、日本の年金制度の中で、このような余剰金が発生すること自体がおかしいのです。日本の年金制度では、「積立金は発生しないもの」という原則は、国民の皆様にキチンと理解されるべき事と思います。しかし、意図しているのかどうか、国の説明やマスコミの扱いは、年金積立金(とその運用益)から年金が支払われるという印象を強く感じさせるものとなっています。これは明らかな間違いです。
ずっと「年金制度は破綻する」と言われ続け、保険料は年々増額されてきていますが、現実にはこの通り余剰金が発生しています。破綻するはずの年金制度で、毎年余剰金である年金積立金の額が増えていっています(一時的に減額した年もありますが)。
政府(厚生労働省)の説明では今後どんどん年金財政は厳しくなる…というものですが、実は、年金を受け取る人と保険料を支払う人のバランスが一番悪いのは、団塊世代が年金受給をしている「今」です。団塊世代が突出して人数が多いため、この世代を支えるのが一番の問題なのです。将来的に支える人数が減るという話は、私は懐疑的に思っています。将来的には子供の数も減るでしょうが、高齢者の数も減るのは当然の事ですのでバランスとしては今より大きく悪くなる事は考えにくいです。そして、この団塊世代の方々が年金受給をしている現在でも余剰金(=年金積立金)が発生しているのですから、現状のままでも年金制度は破綻しないのではないか?と思われます。

年金積立金が余剰金である以上、この運用で損失が出たとしても、担当官僚たちは「なんら問題はない」と考えていても不思議はありません。運用の失敗により損失が発生したとしても、直接的に年金制度には影響しませんので。「余分なお金を好きに使って何が悪い?」ぐらいにしか考えていない可能性はあると思います。
現実問題として、その損失となったお金は、どこへ流れているのかを検証すべきと思います。郵政民営化の時に、「次に狙われるのは年金積立金だ」と言われていました。後で述べる平成16年というのは、郵政選挙の直前となります。陰謀論かもしれませんが、そういう時代に年金制度の破綻が大きく言われ出した事には注意をすべきと思います。

国民の立場としては、年金積立金の運用失敗によって多額の損失を出した事より、このような余剰金(=年金積立金)が発生するような保険料設定であることこそを糾弾すべきなのではないか?と思います。そもそも余剰がなければ株式投資の問題も生じませんし、当然に損失の問題も生じません。先日、政府は労働者の所得が増えないのは社会保険料が高いせいだ、というような事を仰ったそうですが、それなら社会保険料を適正な額に設定しなおす事を考えるべきではないか?と思います(おそらく、この発言は便宜的なものであると思いますが)。

そして、もっと大きな問題として、今後の保険料の増額設定の問題があります。現在の保険料は、平成16年の見直し時に保険料を増額しなければ年金制度は維持できないという理由で自動的に保険料が増額することが決まりました。その自動的に増額する最終年度が平成28年、今年です。その直前に年金積立金を株式運用するように決定し、その年に大きな損失を出したとして大きな問題となっている…ということは、どういう事でしょうか?
もし、この損失の穴埋めのために保険料を増額しなければならない…という話になったら、それはもしかすると定められていたシナリオなのかもしれません。

これ以上、無駄なお金を強制的に国に預ける事となるのは好ましい事とは思えません。まして、そのお金がどこへ流れているのか?を考えれば、平成16年からずっと言われている「年金制度の破綻」と「それを回避するための保険料増額」が、本当に日本国民のための政策なのか、考え直す必要があると思います。
ちなみに、国民年金の保険料は増額することが検討されています。でも、本当にそれだけの保険料が必要なのでしょうか?100兆円を超える余剰金があるというのに。

確かに、国民のお金を預かっているにすぎない年金積立金を株式投資する事によって大きな損失を生じさせた事は重大な問題でありますが、そこにフォーカスしすぎると、本当の問題点を見過ごす事となりかねません。保険料はこれ以上増額する必要はない、という事を、国民の皆様には知っていただきたいです。


(2016.1.22)







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