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年金の本当のおはなし
<「年金の常識」の間違い>積立方式なら問題は解決するのか?
<「年金の常識」の間違い>シリーズは、思いついたものから書いておりますので、順番が前後したり話が重複したりすることがあります。申し訳ありませんが、御了承下さい。

現在、年金制度は賦課方式によって運営されています。ご存じの方も多いかと思いますが、賦課方式は、今必要としている年金額を今保険料として集めるという方法です。つまり、保険料を支払っている方と保険料を受け取る方は別の方で、その状態が順繰りに次の世代へと回って行く事になっています。このため「世代間扶養」という位置づけになっています。
年金を維持するための金銭的な方式としては、他に積立方式があります。これは自分で掛けた保険料を自分の年金として受け取るという方法です。

最近は、世代間格差が声高に言われるようになって、現在の賦課方式を「損」と考える方もいらっしゃるようになりました。正直な事を言いまして、とても残念な考え方だと思います。
年金という制度は、なんらかの理由で収入が途絶えた人(高齢となる・障害になる等)を各個人のレベルで支えるには負担が大きくなってしまうので、国民全体で支えるようにしよう、という制度です。
御自身の事として考えてみていただきたいのですが、自分の親や兄弟、親戚等に収入を得る事ができなくなった人がいる場合、その方を100%経済的に支援される事は可能でしょうか?年金だけでは暮らせないと仰る方は少なからずいらっしゃいますが、それでも年金があるかどうかでは大きな違いです。これは年金を受ける立場になられた方の多くの方が仰っていらっしゃる事です。もし年金も含め収入のない方がいらっしゃった場合に「自分が」その必要なお金を全て出そうと考えられる方は、どの程度いらっしゃるでしょうか?
今の日本で生きて行く為には、必ずお金が必要です。これは良し悪しとは別のお話です。お金がなくなれば、生きて行く事ができなくなるのは事実です。若くて健康なうちは働いて収入を得る事も可能ですが、高齢となれば定年に関わりなく体力の低下等によって働く事ができなくなりますし、また高齢でなくても大きな障害があれば働く事ができなくなるでしょう。そうなれば一般的には収入がなくなってしまいます。今まで収入を得ていた方が亡くなった場合も、その収入で暮らしていた方には収入がなくなるでしょう。特にお子様はどうやって生きて行けば良いのでしょうか?
昔はこういう方々を家族が支えてきました。しかし、昔のような大家族ではなくなり核家族化し個人化が進む中で、収入のなくなった親や兄弟を支えることは難しくなってきました。社会構造が変わり、各家庭・個人で支えることができなくなってしまった結果、社会全体で支える方法を考えなければならなくなりました。それが年金制度です。
年金制度を国の詐欺か何かのように仰る方もいらっしゃいますが、今の社会の中では「社会保障」というものは何らかの形で必ず必要なものなのです。
世代間扶養には、このような考え方が根本にあります。親を子が支える代わりに社会全体で支えるという考え方は、親子の絆がはっきりしていた当時はさほど不自然な事とは思われず受け入れられやすい事だったでしょう。また、前の世代の苦労を知っている時代は、前の世代の年金額が多くてもその事自体を問題視する事は少なかったように思います(年金額を増やしてほしいという希望はあったと思いますが)。
世代間格差を声高に言う事は、人間性がそれだけ貧しくなった事の証明のようで、とても悲しい事だと思います。

この世代間格差については、積立方式であれば解消すると主張される方がいらっしゃいます。確かに、積立方式なら、自分が掛けた保険料をそのまま受け取るわけですから、年金制度全体の収支に関わりなく年金を受け取れるという話にはなります。しかし、本当に積立方式なら全てがうまくいくのでしょうか?
年金制度は40年間保険料を掛け、その後平均で約20年間年金を受け取る形になります。つまり、一人につき約60年のスパンで考えなければならない事業です(実際には間に5年のブランクが生じますので65年ですが…)。
例えば今から60年後の経済がどのようになっているか、わかりますか?60年後、もしかしたら大きなインフレが起きて、貨幣価値は今の10分の1になっているかもしれません。もちろん、貨幣価値が大きくは変わっていない可能性もあります。しかし、貨幣価値は変わらなくても、生活水準が変わって生活に必要なお金が今より多くなるかもしれません。実際に60年前と今とでは、その時代に合った基本的な生活をするために必要な経費は全然違います。インフレが起きなくても生活水準が上がれば生活に必要な金額は変わります。あるいは、電気代やガス代等、生活に必要な基本的な費用が値上がりをすれば、生活水準が同じであっても生活に必要な金額は増えることとなります。
60年も先の将来に本当に必要となる金額がいくらになるのかは誰にもわかりません。今、掛けた保険料で受け取る事が可能な金額では、全く足りなくなる可能性はいくらでもあります。この点については、賦課方式であればその時に必要な金額を受け取るように設定することは可能です。老後の生活にとってどちらがより安心か?といえば、賦課方式となるでしょう。そして、積立方式の場合、掛けた金額が足りないとなれば、間違いなく制度は破綻します。

ところで、積立方式になった場合の積み立てられた金額の総額がいくらになるか、想像がつきますか?
今、「年金積立金」として存在するものは、今保険料を掛けていらっしゃる現役世代の方々の保険料から積み立てられているものではありません。遠い過去、集めた保険料より支給した年金額の方が少なかった時代がありました。その頃に、余った保険料をとりあえず保管したものが現在ある年金積立金です。保険料も安かった時代の一時期に積み立てられただけで4兆円もあります。ちなみに、この年金積立金を運用して生じた差益が年金として支給されているわけでもありません。年金支給に必要な金額はたったそれだけでは賄いきれません。
非常に単純な計算をしてみます。
国民年金の保険料を仮に月15,000円とした場合、年間で180,000円×40年で7,200,000円が一人分です。全被保険者(加入者)を6,826万人とすれば、491,472,000,000,000円…500兆円近い金額です。この基礎としている保険料は、今は15,000円を少し超える程度ですが、最終的には16,900円となる予定ですので、500兆円を超える額となります。これは何年分の国家予算でしょうか。しかも、これは国民年金分だけの金額です。厚生年金・共済分も加算すれば、もっと大きな額になるでしょう。
こんな大きな金額を、国に…というより厚生労働省に預ける事の方が怖くないですか? おそらく、それを一番嫌がるのは財務省でしょうけれども。
悪名高いグリーンピアや厚生年金会館等がなぜ作られたか?といえば、官僚の手元に多額のお金があったからです。「すぐに使わなくても良いお金」として、こんな大きな金額を預ければ、また似たような事を繰り返す可能性は否定しきれないでしょう。いえ、まだ国民に対する福利厚生事業に使われれば良いですが…。

積立方式にはこのような危険性もあるのだという事は認識しておかれた方が良いと思います。


(2012.2.26)




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